★「重い午後」(楠和子)すぐれた稟質がある。若い女性らしい匂いのうちに、チラリと心の淵を見せている。次作を期待する。
○終りに――今月号の作品欄には、活気が見えていてたのしかった。ことに女性の作の進境がめざましい。問題点
一、難解について――難解はそれ自身悪いことではないが、内容と技術の必然性ある場合に意味があることを忘れまい。
二、鬼面人をおびやかすことについて――詩の芸術性は詩そのものにある。童謡芸術は、芸術の中で最も苦難に満ちた領域である。画家のデッサンの苦役に学ぼう。軽薄なモダニズムのひけらかしは自己嫌悪で請算しょう。
三、雑駁さについて――なまな報告は、詩として訴えるものがない。作品として結晶するまで満足しないようにしょう。
四、童謡・民謡の発想について――うまさのほかに詩としての芸がほしい。作曲に助けられない自立性がほしい。新しさだけが能ではないが、現代の生活感情の中かう掘りあげて行きたい。本誌の童謡・民謡欄から新しい童謡・民謡の烽火があがるように。
五、語法の誤り、あて字その他について――表現上の必然な場合はともかくとして、誤植とは思えない誤りがかなり見えた。無理な造語、無理なふりがなも、無理はやはり無理である。
六、現代詩の修羅場について――現代詩の修羅場の渇の中へ身を投じてしまおう以上、五月号読了の感想を率直にのべて次号を待ち望む次第である。潜評鳴謝。
掲載誌:『詩と民謡 北日本文苑』第22巻 七・八月合併号 復刊46号 通巻146号 1964
中河与一研究特集 北日本文苑詩と民謡社