ウソが本当になってしまった
そんなつもりではなかったのに
そんなつもりになってしまった
ウソは真実よりも美しいのに
真実だけが傲っている
真実はそこらに ごろごろ泥まみれになって
ウソをはっきり輝かすことのむつかしさに怒った眼だけ出している
ウソは未知への新しい門を開いて
ひとりぽっちの真実をざわめきの華やかさへ連れ出そうとしているのだが…
ウソは美しさにかくれて涙ぐんでいる
(43・11・11正午 国電日暮里~上野)
掲載誌:『日本詩』 第26巻・復刊91号 通巻191号 1969 1月号