★十月十七日一九六八年度ノーベル文学賞が川端康成氏に授与と決定して大騒ぎ。日本人のノーベル賞は物理学の湯川秀樹、朝永振一郎両博士に次いで三人目だが、文学賞はアジアでは五十五年前のインドの詩人タゴール以来のことだから慶祝の至り。弟子の三島由紀夫氏は前から候補といわれていたが。三島氏でなくその師の川端氏に決定したのでヤレヤレだ。川端氏受賞について色々いわれているが、何より「言語の壁」を越え日本文学の海外への突破口を開いたことが励みになる。それにしても日本の詩人がノーベル文学賞を貰えるようになるのはいつのことだろうか。それに値する日本詩の出現を今後に期待しよう。
★同じ十月十七日付読売紙文化欄の木曜インタビュー欄で金子光晴氏は〈詩人はエゴイストで、詩は革命的な仕事だから、昔から先輩を認めぬ一匹オオカミばかり(中略)戦後は徒党を組む詩人が増えましたがね。詩集は近く二、三出します。『愛情69』というのは六十篇のエロ詩集です。69というの、知ってるでしょ。一般のサラリーマンのための気楽な詩ですよ。ぼくらのは、形而上的な詩を書こうというんでなく、現代の底流と人間の探求を深めたいだけの、平易な通俗的な詩です。詩はサービス精神を出して、みんなに読んでもらうのがいいと思う。感動させる詩を書こうとか、詩壇コンクールに参加しようなんて気はないですね〉と語っているが、金子氏の作詩態度や姿勢は別として多少耳の痛い人もあろう。“徒党”云々に異論はあるにしても“詩は革命的な仕事”というのは至言だ。
★9月28日行われた日本音楽著作権協会評議員(任期3年)の選挙は空前の激戦で流石の筆者も目を白黒させられた。私が初めて推薦人になった詩友若干は惜敗したが、旧知の殆んどが当選した。問題は今後に残されており、シコリをなくして円満に運営して貰いたい。それにしても今まであまりにも岡目八目的に無関心でいた筆者らにも今度の選挙の混乱?に至るまでの同協会に対する責任がないでもない―ことを反省させられている。それだけでも有意義な選挙だったといえる。
★フランスの女流詩人マドレーヌ・リフォーさんが三年前の2月~3月南ベトナムのジャングル地帯で解放戦線兵士が歌っていた竹槍の「竹けずりの歌」や「ベトナムの娘」等を録音したのが、フランスに次いで世界で二番目に9月25日ビクターLP盤として発売され話題となっている。リフォーさんは「まくらを高くして眠っている国の人々にこの若い抵抗戦士たちの歌声は、どんな言葉よりも雄弁にこの戦争を伝えてくれることだろう」といっているが、歌声の強さが平和と結びつく一例証となろうし、この女流詩人の情熱と勇気を日本の詩人は見習っていいだろう。
(43・10・20 夜)
掲載誌:『日本詩』 第26巻・復刊90号 通巻190号 1968 11・12月合併号