随筆

「巻頭寸言 「芸術」に弱い日本人と「無償の精神」と」

★映画『東京オリンピック』は種々の問題を醸しているが、誰の為の映画か。芸術か記録かと賛否半々だが、賛成組は『芸術』に弱い高校生型だ。オリンピック規約は『記録映画』と規定している。組織委(これも芸術の名に弱い連中だ)は最初から方針も人選も誤っている。多数のフイルムの中から二本目を作るのに市川崑監督の承認がないと著作権侵害になるそうだがこれも問題だ。同映画は大衆の物で市川氏個人の物でない筈だ。日本人は由来所謂『芸術』の名に弱くマ元師の『精神的年令12歳』からまだ成長していない。芸術は感情に、記録は知性に比重を置くが、同映画を二本作らねばならぬとはさすが『分化(文化に非ず)日本』だ。筆者は河野国務相に手をあげる。序だが、三島由紀夫氏の『芸術』に傷つけられた古武士有田八郎氏が死んだ。芸術のためなら何をしてもよいという考えは呪われてあれ。日本人はもっと『芸術』の名に『強く』なれ。いつまでも『高校三年生』向きの映画・レコード等繁昌時代にしておくな。『大衆は大知』を忘れている1?みの自称芸術家・批評家への厳しい批判精神が今こそ必要だ。『金』になる『芸術』と称するものから早く開眼せよ!
★名利を超えて奇篤な出版をしている松本富夫氏の世界文庫が関東大震災に27歳の若さで消えた俳人富田木歩氏の全集を、40年間木歩氏への友情に尽して来た俳人新井声風氏の編著で出し松本氏主宰の異色雑誌「文明」に加藤譲治氏の小説富田木歩を連載したが、心温まる美しい事だ。『昨日の友は今日の敵』の現時、友情かくあるべしを教えている。★昭和24年生れた日本現代詩人会が26年H氏賞(最初1万円、現在5万円)を制定して今年で15回を迎え5月13日第15回H氏賞授賞式を行うが、H氏とは誰か知りたいと思っていたら昔小熊秀雄、遠地輝武氏らと活躍し戦後詩と思っていたら昔小熊秀雄、遠地輝武氏らと活躍し戦後詩と別れ実業家として成功している平沢貞二郎氏だそうだ。金額は別として平沢氏の匿名による篤志、学ぶべく敬すべきかな。尤も先年他界するまで全く匿名(今も知っているのは筆者だけ)で或る『善行賞』(これは今も続いている)の賞金を多年筆者を介して出していた老婦人も地方にいたが…
★詩人江口榛二氏が街頭に「地の塩」と書いた箱を置き寄謝金を困った人が自由に持ってゆけるという「地の塩運動」を始めて今秋9月で10周年を迎えるが、箱は551号(2月21日付毎日)になったという。これまた美しい話。真の詩心(無償の精神)を行動に発揮している江口氏を、また学ぶべく敬すべきかな。『詩を作るより田を作れ」の語の真の『田』はH氏賞や「地の塩運動」等にあるのだ。(3月27日・中山輝)

掲載誌:『詩と民謡 北日本文苑』第23巻 四月号 復刊53号 通巻153号 1965
北日本文苑詩と民謡社