一ところにすがりついて 滴りおちる青い時間の尾をなめなめ
目がほしい いや この身このまま目になりたい 何でも見究めたい と願っていたが
いのちの果てをよびながらどこか遠くへ去っていく鱗雲の脚について行こうと 梢を離れた
でも 不意にはぐれ鳥の 道を包む嫉妬(やきもち)やきの風に暗さへと叩きおとされて
身もだえしながら ふり仰ぎふりかえり黒い蝶のように舞いおりていき
じめじめした底にひっそりと横たわらねばならなかった
白く孵化した時間が息せききって羽ばたいていくのも知らずに
そのうち 再び呼びに来た鱗雲の尿(いばり)に下へ下へとついていった
気がついたとき いつのまにか 大きな目にさせてもらっていた
滅びることのない 見開いたきりの赤茶けた大きな目に
川原でじっとして 往き来する何でもを見究めることができる目に
もう葉に戻ろうとしてもできないのを知ったとき
ふっと 哀しみの仄甘さにぬれはじめた……
(41・12・20 夕)
掲載誌:『日本詩』 第26巻・復刊87号 通巻187号 1968 8月号