★新聞の伝えるところによると、全国百数十の大学のうち約80の大学が騒動中の由。これは日本だけでなく、世界各国の風潮だ。中共の紅衛兵旋風も北京の学生が火蓋を切ったし、韓国、インドネシア、南ベトナム等の革命から仏国の総選挙騒ぎに至るまで“全学連”各国版が花盛りだ。日本などは暴力革命の予行演習にすぎず“昭和元禄”の夢を破る“山鹿素行門下の赤穂浪士”や明治百年を築いた“松下村塾”生等の“真の全学連”はまだ出ず天下太平だが、そのうちエリート族気取りの大学生よりも、骨のある“大学浪人”が決起するかも知れない。これらの問題について論議も花盛りだが、世界的の学生運動は要するに反体制運動だ。体制派は支配権にしがみついて苦慮しているが、反体制派は支配権をとるまで後続する。この体制派対反体制派は各界各分野で争っている。日本詩壇とて同じで、体制派のお歴々も“末がお楽しみ”だ。
★現代詩(変な名だが)はさておき、歌謡界は反体制派の時代へ移りつつある。NHKテレビ「あなたのメロディー」は五周年を迎えたが、一億総詩人・総作曲家時代の傾向を示し、5月5日で五万曲、毎週五百曲の自作が寄せられヒットも数多く、もはや作詩作曲は老若男女の“趣味”になった。また作曲界でもレコード会社専属の体制派よりフリーな反体制派(平尾昌晃、鈴木邦彦、鈴木淳ら)がヒット曲を独占しつつある。これは反体制派が新時代を開くため生命をかけているためであり、次代の旗手が肌で知って呼応しているからだ。体制派はもっと自身に厳しくし、反体制派(後進)に謙譲であるべきだ。
★「私の文学の目的は、埋もれた人、誤解された人、悲境に死んだ人などのために紙碑を建てることだ」は長谷川伸氏の絶筆だ。故伊福部隆彦氏と“紙碑”(本誌の私の「おもいでの人々」はそのつもりだった)でなく、具体的に再発掘し顕彰することにしていたが、やっと故藤田健次氏の顕彰が実現でき、福田夕咲全集が高山の親類・門下生(歌人)の手で今秋出る。伊福部氏が藤田氏と同じ心臓マヒで急死したので故杉江重英氏(富山市出身)らの顕彰を実現できずにいる微力を嘆く他ない。真の詩人は名利をこえて生き、死後も空しく埋没することを思い、ただ“生の証”として永劫をみつめ木石の代弁者としての心情を言葉を藉りて表出するものなのだ。詩徒は本来孤独で悲劇的な存在でいつも反体制派(反骨・在野精神)だが…。(6・30 藤田健次氏初七日の前夜)
掲載誌:『日本詩』 第26巻・復刊87号 通巻187号 1968 8月号