★第4回生存者叙勲が文化の日に発表されたが大臣経験者や元高級官系や大財閥らが勲一等で政務次官級代議士が二等、多年下積みの教師、消防士ら下級公務員が四等以下と例によって官尊民卑を如実に示している。尤も候補者を推薦するのも叙勲を決めるのも役人だし、勲等なんて大職冠藤原鎌足以来、官僚が軍人本位だったから庶民に無縁なのは当然だが、上等下等の等級で人間を区別するような印象を与えるのはやめたらどうだ。政治家が外遊の際勲章がないのは体裁が悪いと云い出して復活した叙勲だからどうでもいいようなもんだがね。芸術家の殆が叙勲に無関係なのはさっぱりしていていい。等級をやめて何々勲章と分野、職業別に改正したがいい。
★山田耕筰氏(80)が10年前脳出血で倒れ東京・聖路加国際病院に入院、療養費にも困り一人淋しく療養生活を送っていることを知った富山市芝園中学校生徒会は同校歌の作曲者が山田氏であることから 9月慰問文を書き見舞金一万円を集めて山田氏へ贈った。山田氏は文化勲章受章者で日本芸術院会員だが、山田氏にして晩年かくの如し。二千年前の蓮の実を開花させた大賀博士も貧しい医療扶助の床で永眠したし「人間国宝」が生活苦から自殺したりしている。血税を絞り取る事が得意でも国宝的人材を不遇にしておいて何が文化国家か。政府も政治家も眼が節穴か。
★東京江戸川区小岩町4ノ2009 靴屋氏野美彦氏(34歳筆名工藤一麦)が8年前自らがり版切って「オンボロ詩人集団」の詩誌「雲と麦」を創刊してから12月で百号を迎える。同人は全国に散在の 160人に内90人がお手伝いさん、女子店員、美容師ら若い勤労女性だそうだが、同人費 月300円納入の人々は「詩を書くことはむずかしいが“詩は祈り”と知って…」と生活詩を書いている由(北日本新聞9月5日付)善哉。政府も非行青少激増を嘆き対策を講じているが、詩を書かなくとも詩を愛する若人に「非行」化はない。佐藤首相以下、詩集の一冊も買って愛誦し、詩作(せめて俳句でも)のマネでもしたら如何。何も毛沢東位のいい詩を書かんでもいいが…。そして青少年に詩を奨めたら如何。日本ほど詩人を粗末にしている国はない。そんな国にウジ虫がふえるのは当り前の話だ。為政者先ず詩心をよび起こせ。
(11・4 中山 輝)
掲載誌:『日本詩』第23巻・復刊60号 通巻160号 1965 12月号