過日は御詩集有難う存じました
装幀はあっさりしていて清潔でいいですね。十二町画伯のさりげない装いの中に御作品にマッチするようにという思いがこめられていてよく映っているように存ぜられます。
お写真は前にお会いした時よりお若く写っていますが、あなた様も万年処女のおつもりで詩を書いておられるからでしよう。これが詩の功徳とでも申すべきものかも知れません。
お作品の一々については申し上げませんが私の好きな作品だけ挙げて愚感を並べたいと存じます。
「生活の音」生々しい生活の断面に自己を凝視しそれを通して目に見えない高次元に対っておられるあなた様の構えがよく出ています。七行目と十三行目に鋭い才と申しましようか深い哀しみを えた内在がよく出ています。
「ある重量感」これは「重圧」と似ているのですが、次元が違うのでそのような表現がよくとられています。「重圧」は理屈っぽいので迫力が弱いいのですがこれは可愛いい幼な子の成長の悦びを、それといわずにまた「私」が顔を出さずに省略法を生かしてあるので効果をあげています。
「風のまにまに」
運命でも生活でもよし、それを「風」としてあるがまゝにうけとりながら順応しながら、その中に凛とした「個」を主張しておられる御心境がよく出ています末連の一行が尊い世界観の内を覗かせています。
「かったるい感傷」いい叙景に抒情が適合しています。三連に風刺が哀愁を伴って生きています。
その他、独自な境地を示したものに「点」「一線」「一瞬」「深湖の底に」「苦々しい夢」「ひとり」「輪」「すすき」「秋感」「地の果てに」「寒日」「白い風」「季節の交点」があります。
林房雄氏が書いていましたが、本当の詩人というものは年とってからいい詩を書くものです。いわゆる詩壇なるものの脇にいる者にこそ本当の詩があるのです。(後略)
掲載誌:『日本詩』朝森弓子詩集「山襞」出版特集 第23巻・復刊59号 通巻159号 1965 11月号