暑くなりました。どうも寒がりやの骨皮筋右衞門にとって閉口の季節になりますが、誰に文句の云いようもないし、この“自然の折目”に最敬礼する他ありません。
一ヶ月前から胃痛甚しく、下痢気味で体重十一貫が十貫に減って、ゲッソリ痩せました。両親とも癌系統で、父も二人の姉も母の姉弟も胃癌で死に、長兄は腸癌でしたが手術して助かっている有様なので、胃癌かと怖れています。尤も検便の結果出血していないので、まァ大丈夫だろうという医師の言ですが、いずれ東大か癌研で診査して貰うつもりです。何しろ、したいこと、しなければならぬことが山程あり、まだ死ぬのに早いので用心しています。
“時雨”早や92号・100号に手届きですね。坂口氏から“熊ん蜂”いただいていますが、非同人誌で、坂口氏一人の資力と努力によるということ、巻頭言で知って吃驚しました。
92号、ますます逸品揃い。山岸兄の「しゃくなげ」は軽妙で、終章で活き、三井氏の“お座敷唄”古調も面白い。酒をのまぬ三井氏がこういう粋な情調を描くとは、“人はみかけによらぬもの”の感ありです。尤も粋人必ずしも粋筆を揮わず、酔人必ずしも酒のウタを書かぬと同じか。都築氏の、“都会民謡”〔「月さま」こと月原橙一郎氏を、ふと憶い出しました〕益々冴えて来ましたね。“αβ”の機智、調刺、“グラマー・ホステス”に至って極まり、“茶碗酒”に至っては、三連末行で唸らせるあたり心憎い。槙氏の“久留米の団地”は少し丹然すぎる嫌いあれど終の一行がモノをいうていますね。宮本氏の“恋の薬”は一、二連だけだと唸りたくなるが、あとの四行が玉にキズ。山田氏の“忘時”終連(“閑けき”が気になれど)いいですな。羽田氏、“田植どき”二篇のセリフよく利いています。(一)の「向うのうたごえ流行歌」や終三行、得もいわれぬ味です。
小菅氏の〈父子民謡集〉大変でしたでしよう。近藤吐愁父子や、笠井雅春父子のように羨しいことです。
あれこれと、人のお世話をされ、お忙しい中にこうして続刊されること、真似られることでありません。お身体をこわさぬようにして下さい。
掲載誌:『時雨』93号