随筆

「詩界随評 名利を超えた偉大な詩を」

☆本年度ノーベル文学賞がフランスの詩人サン・ジョン・ペルス氏(七三)に授与されることになったが、スエーデン・アカデミーは受賞の理由としてペルスの詩のもつ「現代の諸条件を幻想的に反映している。その高度の現実逃避と鮮やかな心象」をあげており、難解な長篇叙事詩で世界詩壇の高峰を占めているという。日本は散文黄金で叙事詩は福田正夫氏等で衰滅し、抒情詩が余喘を保っているだけだが、文学に対する眼は欧米と日本と天地の差があることを示している。日本の詩に哲学がなく思想らしい思想もない。島国根性では済まされない。外国の模倣と流行の尾を追うのでは話にならぬが、日本にも偉大な叙事詩が生まれてもよさそうなものだ。どうせ売れないのだから、名利を超えた、土性骨の据わったものを誰か書かないものか。
☆朝日新聞は毎週のように髙田敏子なる人の詩をのせる。軽いがそれだけのものだ。写真説明文の代用だが、同じのせるならもっといいものをのせたらどうか。総体にジャーナリズムは詩を忘れている。底が浅く、激流に浮かぶ水泡をとらえるだけが能ではないのだ。
☆世界は民謡の交流?時代へ入っているようだ。民族の生活感情を理解し合うのによいことだが、メロデーだけに終っている。日本とて観光用に役立ってもそれ以上でない。新しい民族の歌、民衆の唄よ、生れよ。(T・N)

掲載誌:『詩と民謡』1960年12月号 18巻12号