その他

「遠い方に」

丸裸の山が首をかしげているので
ひとりぼっちの木も首をかしげている
仲間はずれにされたカラスもその木の枝で首をかしげている
その下の青い小石も首をかしげている
傍の蔓草を分けて這いおりる小さい瀬も首をかしげている
岬にかくれていく陽を見送っている半欠けの月まで首をかしげている
みんなみんな首をかしげている
遠い方へ向いて

遠い方に何があるというのだろう
遠くでなにかが時々なにか呟いているようだ
その呟きを聞こうとみんな耳をすましているのだろう
なにもみえない遠いところに
失われたものがひっそりとあるのかもしれない
白い風だけが裾を乱して遠くへかけていく
もう二度と戻れないのも知らないで

掲載誌:『人生道場』 昭和48年9月 28~29ページ