昨夜眠ったまま いつのまにか知らぬうちに
不意に呼吸がとまったきりであったなら
生き生きとめざめ出した濡れた小石よ
こうして話しかけることも出来なかったろう
昨夜死んでしまったのだが今日新しく生まれたのだと思うと
誰にお礼をいうていいのやら
おはよう おはよう 美しい朝だね
逃げていく灰色の老いた電車よ
両手をひろげて抱えこんでくれる白い風よ
今日一日 いや ただ今限りの瞬間々々のいのちなんだから
つきとばされれば つきとばしてくれた人に
足を踏まれれば 踏んづけてくれた人に
有難う 有難う とお礼を云おうよ
名なし草のように素直でも 愚かしく貧しくっても
季節の折目々々のありのままに 生きさせて戴いている証を
じかに厳しく肌身に教えてくれる人々に ね
もしも今日一日 いや瞬間々々に心残りなく
最善を尽すことができて
今夜暗い眠りの谷におちこんだまま
永久にめざめることがなかったとしても
有難う 有難う とすべてのものに
お礼をいうたままの笑顔で凍っているように
願っていてくれよ のう しわがれ声のはきだめよ
ちぢこまっている野良犬の糞よ
掲載誌:『壺』 昭和53年9月 15~16ページ