その他

「あいつは馬鹿さ」


あんなやつ みたいな 馬鹿はない
人のいうこと そのまま 鵜呑み
だまされ通し そむかれ通し
 あいつ奴(め) せめては
 俺の爪の 垢でも 煎じて のめゃいいに
 俺みろ 人をみるたび 泥棒と おもて
 用心して来た どんなもんだ
あいつは 馬鹿さ 馬鹿もんさ
死んで 生まれかわって くりゃ よいさ
どうせ 課長さんなんかにゃ なれやせぬ
それでいいんだろな あいつには
たまにゃ 馬鹿みる 正直者も いなけりゃならぬ娑婆

あんなやつ みたいな 阿呆はない
人のいうこと そのまま 信じ
逃げられ通し わらわれ通し
 あいつ奴 せめては
 俺の鼻の 糞でも 拾うて のめゃいいに
 俺みろ 人にあうたび タヌキと おもて
 軽蔑してきた どんなもんだ
あいつは阿呆さ 阿呆もんさ
死んで 生まれかわって 来にゃだめさ
どうせ 金持なんかに なれはせぬ
あれでいいんだろさ あいつには
たまにゃ 阿呆みる 根生よしでも いなけりゃならぬ娑婆
―38・10・11夜―

掲載誌:『詩と民謡 北日本文苑』第21巻 十二月号 復刊40号 通巻140号 1963 北日本文苑詩と民謡社