民謡

「いいじゃないか(歌謡)」


おいらは どうせ 悪党さ
世界が 悪魔と いうのなら
いわせて おいて いいじゃないか
 ただ 世間じう しあわせに
 なれりゃ いいのさ おれだけが
 悪魔さ 馬鹿さ それだけさ
  とうの昔に 死んでいりゃ
  こんなおもいも せなんだろ
  そうとおもえば いいじゃないか

睫毛 ぬらすな 夕霧よ
泣いてなんかは いやせぬぞ

おいらは どうせ 悪人さ
娑婆じう 色魔と いうのなら
いわせて おけば いいじゃないか
 ただ 娑婆じうが はなやかに
 暮しゃ いいのさ おれだけが
 色魔さ 阿呆さ それきりさ
  遠い昔に 死んでたら
  こんな涙も 出なんだろ
  そうと 思てりゃ いいじゃないか
肩を 叩くな 野すゝきよ
吐息なんかは しやせぬぞ

おいらは どうせ 極道さ
みんなが 畜生と いうのなら
いわせて おいて いいじゃないか
 ただ 誰でもが はれやかに
 すごしゃ いいのさ おれだけが
 畜生さ 餓鬼さ そうなのさ
  とっくの昔に 死んじまや
  こんな憂目も みなんだろ
  そうと きめてりゃ いいじゃないか
背(せな)を撫でるな 病葉(わくらば)よ
情なんかは いりゃせぬぞ
―昭和33・6・25 未明

掲載誌:『詩と民謡 北日本文苑』第21巻 十一月号 復刊39号 通巻139号 1963 北日本文苑詩と民謡社