随筆

「地獄通信」

一筆啓上 そちらも交通地獄に焦熱地獄 こちらがましだと思うてか、心中・自殺に癌・事故死、その上「殺し」のオマケして、次々亡者が押し寄せるため、釜を休む暇もなく、大王は昼寝もできんとこぼされおり候 そちらは変なトラやオオカミばかりで本物が見世物にしかなって居らん。小生らのフンドシも亡者共から見世物扱いされ聊かエッチ気味で困りおり候 先月六日夜不意に来た河野一郎も昨日来た池田勇人も日本人の特色を忘れ(せめて越中フンドシでもとの小生らの期待を裏切り)毛唐のマネしてパンツとやらでやって来て何やら小生らへガヤガヤ云っており候 河野がドナルし池田が「オレにまかせろウソは云わん」と云うし嫌な連中が早く来すぎたので、大王もいい加減に早く極楽へ行ってほしいとこぼされ候 そのくせ早く来て貰いたい連中に限ってそちらでノサバリおり小生らに四股をふませおり候 あいつとあいつが来たらどう料理して針の山へ追い上げようかなどと楽しみにしており候 そう思うことにより、つまり心頭を滅却することにより焦熱地獄の本家のこちらもへのカッパになりおり候 もっとも韓国や南ベトナムでバーベキューとやらの焼身自殺をした面々の自称元祖快川和尚は涼しい蓮の台でアクビばかりし、も一度そちらへ(特に観光ブームの恵林寺へ)戻りたいなどと好き勝手なゴタクを並べおり候ところを考えると、極楽なんて善人ばかり光ばかりで明るすぎ自由自在すぎてつまらんところに相違ござらんと存ぜられ候

大王が久米仙人の真似をして観音様の御裾からちらりと見せられた白い御足に見惚れてござる隙に一筆走らせているうち河野や池田がどっかへ消え果てヤレヤレと一安心仕り候 多分快川和尚の隣へ行き「和尚麦ヲクエ」「怠ケルナ」などというているに違いないと存じ候

そちらもそろそろ核戦争が切迫とみえ候 来るなら今のうちに候 ピカドンごっこになればクソもミソも一緒全員こちらへ殺到、それではこちらは超満員、小生らドモナランことに相成り候ゆえ、こちらの事情もよくよく考えておいてほしいもんだと思いおり候(極楽とて同じことに候)「地獄の沙汰も金次第」などという昔の悪党共が方便にいうたことなどこちらではもはや通用しないことになっていること念のため申しそえおき候
さきほど一寸触れおき候がつまらん極楽へなんか行きたいなどと思わん方が宜しく候 極楽にいる連中(タマには盗みついでに警察や税務署の目を盗んでいた位で大王のよそ見の隙にまぎれ込んでいる悪党共もすぐこちらへ追いかえされおり候が)は、こっそり加害者なんかに化けてこちらへ来たり、乞食や精薄者に化けてそちらへ忍び込み貴兄らを試して楽しんでいる始末に候 極楽などのつまらんところにくらべこちらはそちらで出来ない残酷物語の主役も実演でき、善悪美醜さまざまの連中が本性をそのまま出して四六時中騒ぎおり面白いの何の―百聞は一見に如かずとはこのことに候 極楽へはいつなんどきても行けるので、早々に来て小生の手伝いをした方がよかろうと思いおり候 もっとも中山輝などというウルサイ悪人に内緒に候 中山輝なんか早くこちらへ来ると小生ばかりか大王にまで毒づくに違いなく、それでは別の地獄をつくらねばならんことになり厄介至極その上あいつ奴は「個人で地獄新聞を出して閻魔大王以下のマンネリや封建主義を打破する筆陣を張る」とりきんでいること大王の鏡に映るので大王も「中山なんかピカピカドンドン祭のあと始末してから来てくれるといいがなァ」と小生らにこぼされおり候 極楽の連中とて同様と存ぜられ候ゆえ、くれぐれも中山のアン畜生に内緒にしておくよう御注意肝要に候

明日はそちらの祖国喪失・人間喪失20回忌の日であり規格品族・奴隷族の20回誕生日でさぞや賑やかと思われ候が明後日はこちらも年に一度の釜休み久しぶりで三途の川でおんぼろフンドシ洗うつもりまたイノチ(どうも不滅のイノチも困ったものに候)の洗濯をするつもりにしており候 では来るなら来るで遠慮せず早くおいで下さる方が宜しく、お土産は何もいらんというてはウソになるので酒と煙草を身体いっぱい入れて来て鼻と口と肛門からお出し下されば小生有難くいただくつもり、このことお忘れなく(忘れると娑婆へ送りかえすつもり)願い上げ候 先刻来(念のため書き候が昭和40年8月14日午後3時~4時)中山輝が東京駅から大船駅への車中何やら(どうせ誰かへの悪口と存ぜられ候)書いているのを鏡でみながら暑中見舞まで、小鬼、敬白

 二伸 酒とタバコのことなど大王にも秘密に願いたく存じ候 まだ大鬼になれぬこと恥づかしく存じ候えど、大鬼より小鬼の方が末の楽しみがあり気楽で面白いことそちらと同じことに候 呵々

掲載誌:『日本詩』白鳥省吾詩集「北斗の花環」出版特集 第23巻・復刊58号 通巻158号 1965 10月号