「言葉」

腐って凍(い)てついた臓物のそれをぐっと呑みこんだら
かわりに 沸(たぎ)る時間をためこんだ涙がどっと溢れ出てきた
少年にかえっていた頬が風にさらわれてしまったとき
晴れ着をひらひらさせたよそゆきのそれが血の気をとり戻せない唇から流れ出してきた
それが風に裂かれてきれぎれになり そこらじう撒きちらかされて
それぞれ違った貌して別々に生き出して
そこらのとがった目をくしゃくしゃにさせている

再びそこらから吐き出された鋭いそれが私を刺し 私のはらわたを抉り廻り
やがて数珠になって私の唇から離れてゆく

もう私のそれはどこにもない

私は泥に埋れて目をとじたきりの石に 肩を叩いて逃げてゆく風に 私のそれをさがしていた傾斜をよぢ登りよぢ登り
そこらからつき刺さってくる誰彼のそれをぐっと呑みこんで醸(かも)しては
弧に遠のく距離の端へ配りにゆく
(39・10・26)

掲載誌:『詩と民謡 北日本文苑』第22巻 十二月号 復刊50号 通巻150号 1964
北日本文苑詩と民謡社