「だから」

両耳が縦だから 両眼は横になったのさ
鼻が縦になったので 口は横にされたのさ

手足が二本づつだから 指は五本づつにならねばならなかったのさ
オッパイが二つだから ヘソは一つで我慢しなけりゃならなかったのさ

心臓にしたって
肺が二つになってしもうたので
一つになるより仕方なかったのさ

お前が一人しかいないもんだから
俺は二人になり
お前の知らぬ暗いところで
俺同志 憎みあい 罵りあい 果ては 取ッ組み合いして 血だらけになる
揚句は 互に 顔ぢう涙やらハナミズだらけにしながら 痛む傷をなめあっては いたわり 慰め 励まし合う

ところが 眠っているとき 三人目の俺が不意に出て来て 思いもよらぬことをしてみたり 見たこともないところへ連れていってくれたりする

一体 どの俺が本当の俺なのか
いつ 本当の一人の俺になれるのだろう
死んで 耳も眼も鼻も口もオッパイも ヘソも肺も心臓も消えてしまい 骨が白く輝いてばらばらに散ったとき
やっと一人の俺になれるのだろうか
いや あべこべに 無数の俺になってしまい 草になったり 石になったり
ひょっとすると お前の中へ潜(もぐ)りこんで しもうかも知れないな

だから 生きているということは楽しいが
死ぬということも悪くなかろうというものさ
(39・9・24)

掲載誌:『詩と民謡 北日本文苑』第22巻 十一月号 復刊49号 通巻149号 1964
北日本文苑詩と民謡社