それは花が秘密にしていた
やっとみつけたそれを潜る
雄しべから毛細管へ 毛細管から根へ 根から暗さへ 通りぬけていく
そのうちに自分が自分でなくなる
自分を失ってしもう
なにもなくなってしもう
それは石が匿(かく)していた
それを叩く
それが開く
小さいそれを通りぬけ 限界の中に座を張りつめている固定をつき破りつきくぐり 見失ったそれを探して歩きまわる
いつのまにか時間の堆積に埋れてしもう
そのあとはただ眠りこけるだけ
だが 時間が傾いて崩れおちるとき
別にみつかったそれから 別の時間に乗っていく
そこにはもはやそれも自分もなくなって
むなしい光がこぼれているだけ
(39・7・23)
掲載誌:『詩と民謡 北日本文苑』第22巻 九月号 復刊47号 通巻147号 1964
北日本文苑詩と民謡社