「山」

山は黙っている
何でも知りすぎて しまって何にもいえなくなったので
いや だんだん何にも判らなくなってきたので

山は 滝に川をぶら下げさせ むなしさと頑さを結ぶ鳥と一緒に歌わせる
自分の代りに

山は 牛と草のささやきを自分の為として聞きながら
うっとりとして
黙りこくっている
―37・12・13正午・沼津追い車中

掲載誌:『詩と民謡 北日本文苑』第22巻 七・八月合併号 復刊46号 通巻146号 1964
中河与一研究特集 北日本文苑詩と民謡社