唇のかわりに瞼が戸をあけた
言葉のかわりに涙が出た
朝のかわりを夜がして―
魚は眼も口もあけっぱなし
だから天真
鼻は戸をもたない
眼と口のかわりをしっぱなし
眼と口が閉じっぱなしになると
鼻はやれやれと見えない戸を閉じてしもう
光が去ると 私の眼と口と鼻は一斉に戸をひらき閉じ
蒼い時間が前道を洗ってくれる
そのとき誰かがきまって背後(うしろ)にそっと立っている
(昭和38・8・29朝石川県津幡駅近くの車中)
掲載誌:『詩と民謡 北日本文苑』第21巻 十一月号 復刊39号 通巻139号 1963 北日本文苑詩と民謡社