腐り凍(い)てつき臓物になった言葉をぐっとのみこんだら
かわりに沸(たぎ)る時間をためこんだ涙がどっとあふれ出てきた
少年にかえっていた頬が風にさらわれてしまったとき
晴れ着をひらひらさせていたよそゆきの言葉が
血の気をまだとり戻せない唇から 響を失った歌になって流れ出してきた
それが光に裂かれて きれぎれになり そこらじうまき散らかされて
それぞれ違った貌をして 別々に生き出して
そこらのとがっていた目をくしゃくしゃにさせはじめている
再びそこらじうから吐き出された古い臭いどろどろの言葉が私を刺し
私のはらわたを鋭く抉(えぐり)りまわり
やがて珠数になってどこへとなく脱け出していく
もう私の憎くていとしい言葉はどこにもない
泥に埋もれて目をとじたきりの石や
そっと痩せ肩をたたいて逃げていく白い花びらに
私の言葉をまた探している
傾いた時間をよじのぼりよじのぼり…
時々背を襲ってそこらからつき刺さってくる誰彼の言葉をぐっとのみこんで醸(かも)しては
弧に遠のいていく距離の端へ配りにいく
でも それはもう私のいとし子でない
私のそれはみんなの光になっている
(39・10・26正午)
掲載誌:『日本詩』 第27巻・復刊95号 通巻195号 1969 6月号 故湯山泰佑氏追悼特集