いつも暗さにとじこめられてじめじめしているお前にかわってやろうと
骨を削り 痩せこけた身をすぼめ 誰にも判らぬように こっそりと
お前よりももっと下へ下へと へりくだりへりくだり
とうとうどうにもならぬ果てへ来た
お前はどうなっただろうか
お前のふところにいたあの石もあの草もあの鳥も…
いくら想ってももうあうことができない
そのかわり 藻がまつわりついていてくれる 貝も魚もめぐりに目ざめていてくれる
いつもかばっていてくれた光が二度と来なくとも
うるさい音の彩りや 気短かな時間の呼吸もなし
ひっそり むっつり されるままになっておられる
だが やはり山でいなければならぬということは
どこにいても いつまでも ひとりぼっちで
寂しさの極まりの証でいなければならぬということらしい
お前はいつ谷でなくなり 眩しがるようになれるのだろう
そのいつか はじめておれは いとしいお前になれるだろう
(43・8・4船橋ヘルスセンター海水浴場で)
掲載誌:『日本詩』 第26巻・復刊89号 通巻189号 1968 10月号