薄絹を着てうずくまる老婆の沼が片肢を奪(と)ろうとするからだろうか
亡霊の忍び足で寄る霧が「何も見るな 見ない方がいい やがてわかる」と目かくしをするせいだろうか
恐る恐る片肢を入れる 冷酷な厳しさの中へ 生と死が縒れあって蛇の座を占めているところへ
そして 片肢で捜す 空しさにとける幻の中を 始めと終りが絡みあっていて 何でもあるようで 何にもないようなそこらを
いつのまにか空間を司りはじめた雪 それを着て目をとじ出した
嘴(くちばし)を羽根で蔽い 片肢を抱いて
死へ続く片肢で地球を支えて
白鷺はいずれ欲しがる空しさに形を与え
どこか限界の外へ翔んでいくだろう
声をのんだきり 眩しいものに連れられて…
(42・10・3午前10時半)
掲載誌:『日本詩』 第26巻・復刊84号 通巻184号 1968 5月号 鈴木勝詩集「平らな頂上」特集