「飲んで歌うて ―古谷玲児君の霊に捧げる―」


飲んで歌うて 肩くみ合うて
露路の酒場を 廻ったけ
  「こら古谷 君ばかり歌うて
   おれに歌わせんと 飲ませんぞ」
  「おおトホホ……
   飲ませて呉んなヨ 輝さんヨ」
君となじみの あのひとを
探したあの夜も 月ァ出てた
池袋へもう来ない 君の真似(まね)して
ネオン奴(め)が
片目をつぶって 泣かしやがる

酔うて踊って 止まり木たたき
暗い飲み屋を 泳いだけ
  「こら古谷 君ばかり飲んで
   おれに飲ませんと 歌わんぞ」
  「あら嫌(や)だワ……
   飲ませてあげるワ 輝さんヨ」
昔なじみの この道を
よろけたあの夜も 寒かった
池袋へ出て来んか 君の代りに
シグナル奴(め)
目くばせしながら 待たしやがる
(43・1・24 后二時半)

註・古谷君は拙宅近くの平和通りのバアのマダムの心配ごとを解決してやり、来てくれと電話で頼まれて来たのだが、私と二人でいくら探しても移転先が判らず、寒月に二人とも酔いがさめ拙宅で飲み直したこともあった。もう数年前のことだが、その後よく酔後来てくれたっけ。「この道」はその平和通りのことである。

掲載誌:『日本詩』 第26巻・復刊83号 通巻183号 1968 3・4月合併号