「馬鹿」

馬鹿だな
ただまっすぐいけばいいとしている
曲りたいと思うこともあるのだろうが
曲れない性分なんだな
だから自分の背を見ることもできぬし
相手の表面(うわべ)だけ知らないんだな
行先もわからないのに 馬鹿の一つ覚えで どこまでも まっすぐ走ってく
もっとも 正直者だけにしか馬鹿を見る特権が与えられていないのだから
それはそれでいいのだが…

いついのちが果てるのか誰も知らない
でも 与えられたいのちのある限り 瞬間瞬間に最善をつくしているだけ
それでいいんだ 馬鹿な奴は
いのちが消えれば気楽気ままになれようというものさ

馬鹿な奴よ
賢くなるな
賢くなろうと思えば賢くなれようが
そうなったらもうお前でなくなるのだ
光という奴よ
(41・10・14正午 池袋―田端)

掲載誌:『日本詩』 第26巻・復刊82号 通巻182号 1968 2月号