「貝と花」

頂上の桜の花も谷へ散っていく
やがて 川に浮かんで 目高をつれて行くだろう
村の丸太橋 町の板橋を仰ぎながら……
そのうち ふるさとへ辿りつき 白い泡と遊んで 鴎(旧字)の唄にあわせて
だんだん 深みへ入って行くだろう

おしまいに 貝になるだろう
  静かに 違ったいのちで

もうあえない光を恋いながら
時間だけが 一つどころに足ぶみしている音をききながら
(41・12・19后1時 池袋~駒込)

掲載誌:『日本詩』 第26巻・復刊81号 通巻181号 1968 1月号