天狗が天から逆さにおちた おとよの白い大根足みたで
天狗は鼻を突っ込んだ おとよの股へ突っ込んだ
おとよは泣き泣き消えたとよ
天狗も泣いてた 赤い鼻おとよにとられてよ
お宮の杉のてっぺんで いやいや お山のてっぺんで
おとよはやがて子を生んだ 天狗によう似た子を生んだ
天狗鼻股につけた子を
『てんてん 天の子 天太郎よ』
おとよは思わず嬉し泣き
『やっぱりお父(と)うそっくりだべな 鼻はお母ァにそっくりだけんど 目玉ぎよろりのこわい顔 お父うのかわりにのんどくれ お母ァがつくったどぶろくを どうせお前は天狗の子 いつかお空へとんでいく おらは勘当されたまま この谷底で死にはてる お父うにあうたらいうとくれ こんどは鼻でないものを お母ァが待っとるいうておくれ』
天狗は白髪(しらが)をふりみだし
そんなことなど知らんだで
あの娘(こ)死んだかと 泣きじゃくり
空の果てへと 消えてった
さあ このあとがおたのしみ……
(41・12・2午後 池袋―渋谷車中)
掲載誌:『日本詩』 第25巻・復刊80号 通巻180号 1967 11・12月号