「今日いちにち」

今日いちにち いやいや ただいま限りの 瞬間瞬間の いのちだから
つきとばされれば つきとばした人に
足を踏まれれば 踏んづけた人に
つい思わず「すみません 有難う」とつぶやいてしまう

名なし草のように 貧しく愚かでも ありのままに生かして貰っている証(あかし)を
生身(なまみ)に教えてくれる人々に

今日いちにち 瞬間瞬間に 思い残すことなく最善を尽すことができれば
今夜深い眠りの谷底へおちこんだまま
永久にめざめることがなかったとしても
誰彼に「すみません 有難う」と呟いて
ぎりぎりに張りつめて 限界いっぱい生きている石になれて
精いっぱい 瞬間瞬間に最善を尽している名なし草に埋(うづ)もれ
蹴られれば蹴られたなりに空を泳いで 限界に安座できよう

本来の空しさに戻れないのはさびしいが
それはそれなりでいいのだから……
(41・4・3夜)

掲載誌:『日本詩』 第24巻・復刊64号 通巻164号 1966 5月号