山と山とがいつまでも話をしていて
谷に耳をそばたたせたきり
こんないい月夜だというのに
おれから言葉を奪って
おれがやっと言葉を奪い返せたと思うてたら
山と山とが目と目で合図して
こんどは谷と川とが話してやがる
やい! 山と山奴、谷と川ども
おれの口にカンヌキかけるつもりか
おれを口なしの石にするつもりか
それなら今にみていろ
光を盗られたふるさとへ戻って抑えに抑えた憤りを
天へ噴きあげてやる
お前らを粉々にして
それでは困るというのか
なら おれにいわせろ
『やあい地球を真っ二つにして
“東は東、西は西”“北は北だぞ 南は南”とほざいて
いつまでもいがみあってるつもりなんだ
山が山なら 谷も谷だぞ
みんな おれと一緒にわめきたてろ
ひそひそ話はやめてしまえ
澄ますな 大も落ちてこい
みんな一緒にたちあがれ
地球は一つ 日も一つ
みんなもとから一つだぞ』
(四〇・六・二二夜神宿・花園神社会館での東京立山会の帰途酔余)
掲載誌:『人生詩』