「古城の春」(一)

古りし小城(こじろ)の 石段を
埋むと散りし 桜花
踏みて登れば 空遠く
雪かとまごう 雲のゆく

玉の杯 花うけて
黒髪長き 女(ひと)舞いし
高殿朽ちて いくとせか
柱のきずも なつかしき

はるか麓は 宵祭り
崩れし垣に 凭(よ)る蔦も
春装(よそお)えど 人の世は
何とてかくも 淋しきぞ

中山輝 作詩
黒坂富治 作曲

掲載誌:『詩と音楽と美術の集い』