「初雪の日に」

――梢を蹴つて逃げてゆくぞう
樹々は一せいに髪をふりみだし
夜どほしくらがりに泣き喚(わめ)き
秋のうしろ姿めがけ追驅けてゐた

けれど とうとう 見失つたのだ

けさは窓の前へ來て
髪もなんにもない骨つぽいやつれ姿で
ぐつたりうなだれて彳(た)つてゐる

一夜のうちにどこまでいつて來たのか
一夜のうちになにをみて來たのか
みれば 指さきに 腕に 股に
つめたく 白くひかるものをつけてきてゐる

掲載誌:『石』 中山輝詩集 昭和5年9月 67~68ページ『ふるさとの顔』