あのひとたちは
ぢきにだれにでも頭を下げ
つつましやかでほがらかだ
あのひとたちは
ひぐれ 街から涙ぐんでかへつてきても
翌朝(あした) 下(お)りてくる貌(かほ)がにこやかだ
あのひとたちには
だだつぴろいそらのにほひがする
あのひとたちは
そらの青さにそまつてくるのだ
ああ あのひとたちは
そらからくるのだ そらにゐるのだ
あのひとたちの屋根裏は
すまゐでなくつて階段(はし)なのだ
貧しさが架(か)けた階段(はし)なのだ
掲載誌:『石』 中山輝詩集 昭和5年9月 63~64ページ『ふるさとの顔』