「朝顔」

きのふの朝なかつたのに
けさ紫の大きな一輪が咲いてゐる

ゆふべ一夜のあひだに
この葉裏でなにごとが行はれてゐたのだらう

すがすがしいその裝ひをみてゐると
これがなにか大きなもののほんの一部で
なにかの拍子にひよつこりみえてきたにすぎないで
おれたちの眼にはみえないいろいろの花が
まだどこかそこここに咲き匂うてゐるやうだ

掲載誌:『石』 中山輝詩集 昭和5年9月 62ページ『ふるさとの顔』