「ふるさとの顔」

田舎のひとにひよつこり街頭(まちかど)で出會つた
やあ やあ 愕きながら挨拶した

挨拶しながら その人の顔をみてゐたら
ふるさとの痩せた畑や禿山や
淺くなつた川が匂うてきた

さう思へばその顔にも言葉にも
ふるさとの匂ひがしつとり泌み込んでゐたやうだ

ひさしぶりでふるさとへ行つてきたやうな氣がして
暗い小路のかへりも浮々と明るかつた

掲載誌:『石』 中山輝詩集 昭和5年9月 60~61ページ『ふるさとの顔』