「雲は退屈」

どこへゆかうと勝手だし
どんなすがたにならうとも
きままになれるんでつまんない

なんかきまつたこと
なんかきゆつとひきしまること
なんかはつとすることがあつてくれたらどんなになあ

山脈(やまなみ)のがつしりしてゐることや
溪川(たにかは)のきちんとしてゐることが
どんなに美しく嫉ましいことだつか

ひかりのやつはひかりのやつで
虚(むな)しい央(なか)からぱつとでてきて
ついまたぱつと消えてゆくし
そらはそらでいつもきまつて
すましこんでがらんとしてゐるし

あけくれ のらりくらりくらげのやうに
ふらふらしてゐる雲なんて
じつに所在がなうてさびしいなあ

ああ だれか があん! と思ひ切りぶちのめし
いつぺん 存分 泣かして呉(く)んないか

掲載誌:『石』 中山輝詩集 昭和5年9月 56~57ページ『ふるさとの顔』