「分身」


みちばたの石ころに
微風(かぜ)の底に くさむらに
ふいと私の破片(かけら)
まだうまれぬ私の姿をみ
私のなつかしいこゑをきく

どこへいつても
そこらぢう もう幾人もの私がをり
ひそみ ながれ 坐つてゐる
それがみんな別別に生き
なにかつながりあつて輝いてゐる

私は介在
假(かり)の存在(もの)

みんな どつからか
放れてゐたのが寄り添うてきて
すいすい 私のうちらへはいりこみ
みるみるみづみづしい輝きを帯び
どつかへまたながれだしていつてしまふ

掲載誌:『石』 中山輝詩集 昭和5年9月 40~41ページ『分身』