「あのひとたち」

あのひとたちは
きのふも ひとりひとり おちてきた
みんなくづをれてつみかさなり
そのしたにむらがつてゐた

だが けふ あのひとたちは
まつたくみなれない別(べつ)の貌(かほ)をして
おんなじやうな裝(みなり)でやつてきた

みんなてをつなぎ
みんな肩をくみ
みんなそこへのぼつてゆく――
動かなくなつたものの肩
血みどろの頭を踏みこえ 踏みこえ
眼を失つたものは耳をそばだて
耳を殺(そ)がれたものは眼をすえ
手を切られたものは膝で
足を奪はれたものは腕で
ひとかたまりになつてゆく

あのひとたちは
ずつとつづきかさなりあつてくるあのひとたちは
けふもばらばらに傷ついておちてくるだらう
きのふのその上にくづをれかさなり
そのまま動かないものになるだらう
けれどあのひとたちは
あすも あのやうに
まつたくみなれない別の貌(かほ)をして
おんなじやうに肩をくみ足を揃へてやつてくるだらう

おとされても つきおとされても
あのひとたちはひとつのものにつながりあつて
いきかへり 群りあつまつて
だんだん あそこへのぼつてゆくだらう

掲載誌:『石』 中山輝詩集 昭和5年9月 32~34ページ『黑旗』