みんなだまつてゐた
だまつてうなだれてゐても
みんなのこころの底に 胸の奥に
燃えあがるひとつのものをかんじてゐた
くらやみの遠くからは
ときをり喊聲があがつてゐた
脅(おびや)かすやうに銃聲が起つては消えた
あそこにはきのふここにゐてけふここにゐぬ人々が
つめたく地べたによこたはつてゐる
あれも あれも はなればなれに血みどろになつて
泥の中に顔を埋めてしまつたのだ
――おれたちには
もうなみだなんかなににならう
言葉なんぞもなににならう
――おれたちはたちあがる
おれたちは突進する
ふたたび みたび いや幾たびも 處々方々から
それだけでおれたちは大きなひとつのものを
お互ひの眼と眼で お互ひの手と手で
お互ひの跫音(あしおと)ではつきりかんじ獲(と)るのだ
――そしておれたちはみんなどこかで
はなればなれに あのひとたちのやうに
いつか つめたく倒れてしまつても
もうべつのおれたち
大きなひとつのもののおれたちは
やみのなかから そこここから 次々に現はれよう
あの歡聲が 凱歌(かちどき)が おれたちのものとなるまでは
まつくらな夜
空を仄明るくしてゐる遠い篝火
ときをりあがる異様な喊聲
みんなじつと身を寄せ
唇を?んでやみの底をみつめながら
胸のおくそこをながれ合ふ
ひとつの 悲壯な しかも嬉しいものをひしと抱きしめてゐた
――死んだMの霊に――
掲載誌:『石』 中山輝詩集 昭和5年9月 24~27ページ『黑旗』