おれのそいつは どつかにきつと
まだ たれも てをつけずに放(はふ)つたらかして
そのままになつてゐるやうに思へるので
そこらぢう さがしまはる
ときたま みつかつたな と飛びついて
しつかりにぎりしめて 明るみへきて
さて 掌(て)をひらいてよくみると
いつのまにか そいつらしくなくなつてゐる
どつかに きつと あるにちがひないが
一生みつからずに終るのかもしれない
そのうち氣ながにさがしてゐると
ひよつとすると ひよつとみつかるやうで
あきらめかけた掌(て)をまたうごかしはじめる
昭和五年一月五日
神通河畔にて
中山輝
掲載誌:『石』 中山輝詩集 昭和5年9月 5~6ページ