これらの詩篇は 非情に咲いた有情の散華(さんげ)
――空はからつぽで さみしがり屋――
――太陽は日にち あせり 汗ばみ――
――石は嗚咽して 轉落する――
こは 昨日のリリシズムを解除し
蝕める 拜倒しのインテレクチュアリズムと
今日の蒼白いスュール・レアリズムを撥無する
時代の磽角から投げられた展望、瞥見、投射、生活、勞働、汗
人間性と信仰との板挾み
そこに作者の有つプロ詩の著しい假面が鎧はれる
だがここにイデオロギイと論理と
ルンペンの騒擾とを求める者に失望あれ
屋根裏、溝泥(どぶどろ)、黒旗が詠ぜられたのも
同志が呼びかけられたのも
畢竟は科學と時代との先鋭化された歸趨への觀念に外ならぬ
心の領野での神秘と孤獨と向日性とはやがて
作者の靜觀に寫り 反省を目醒まし
東洋的 唯心魔の 詩魂を映飾する
既成詩壇の十把一束(からげ)の奴らがざつと見渡したら
この ざつくばらんで 氣取らな過ぎる
あつさりとして飾氣のない表現に吃驚(びつくり)するだらう
時代は轉じた 新しい詩は生れる
斯くて 著者は 所謂プロ詩に よき規準を示し
われわれの歌に對して 明日への暗示を傳へる
昭和五年一月二十三日 藤森秀夫
(註一)情の旧字は出なかった
(註二)既成の旧字は出なかった
掲載誌:『石』 中山輝詩集 昭和5年9月 2~4ページ