「風には風の」

風には風の みちがありゃ
曇には曇の みちがある
 ふるさと遠く すてて来て
 涙こらえて ゆくみちは
 ひとりぼっちの いばらみち

鳥には鳥の うたがあり
虫には虫の うたがある
 都の隅に うらぶれて
 酔うて歌うて みるうたは
 だれも知らない 恋のうた

花には花の 夢がありゃ
蝶には蝶の 夢があろ
 信じたひとに そむかれて
 すてて拾うて みる夢は
 明日(あす)へはかなく かける夢

掲載誌:『日本詩謡集』昭和52年1月 204~205ページ