「鎌倉哀歌」

なにも 悲しか ないんだに
泣けと 散るのか 桜ばな
  静御前が うなだれて
  おりた石段 のぼってりゃ
  長谷寺あたり 鐘が鳴る

会おと 来たんじゃ ないんだに
どこへ ゆくのか あかねぐも
  大塔ノ宮 めをとじて
  消した夢の世 しのんでりゃ
  傾く月に 海が鳴る

泣こと いうんじゃ ないんだよ
ゆけよ さぎりよ 散れよ葉よ
  実朝卿が 儚んで
  よんだ歌など 歌うてりゃ
  なぜだか頬が ぬれてくる

掲載誌:『日本詩謡集』昭和49年5月 174~175ページ