花は美しいばっかりに切り採られた
竹筒に挿され
茶室の床柱に立たされて
残りの匂いで ひとときの静けさを占めていたが
やがて偽りの褒め言葉が形をかえて通り過ぎると
うすぐらい竹藪にすてられた
花は何かが仮りの姿に顕われ
ありのままに瞬間瞬間に最善を尽し
生きられるだけ生き
もう何にも思い残すこともなく
再び何かに遷っていくのだ
みえない何かだけが真実だということに
気づくものが一人もいないと知っていても
それはそれでいいのだとして――
掲載誌:『現代詩選』第十六集 昭和52年7月 166ページ上段