言葉を奪われた
虹を描く私の小便の匂いにぬれて 私の可愛らしいチンポコに見とれていたばっかりに
ひぐれのてっぺんからころげおちていった白い小石に
一すじの名も知れぬ枯れ草にすがりついていたあの小石に
やっと言葉がかえってきた
もう帰って来ない母の眉によう似た月を消したままおりてきた雲のきれはしがもってきてくれた
光なんどというものを知らない じめじめした谷底に 埋れたままの小石から頼まれたとて――
あの言葉を失ってから 何万枚の日暦が枯れ葉と一緒に暗い世界へ散っていったことか
“やあまたくるで 鼻かけ耳なしお地蔵さん”
かえってきてくれた言葉を もう二度と口に出さないかわりに
あの日の口笛を棘(とげ)々しい風に流しながら
ほくほく とんとこ とっとと てっぺんから一気にかけおりた
私だけにしか用のない 私の身代りのいとしい言葉よ
愛しあっている時には君は用がないのだそこらの小石と一緒に暗い世界にいるんだよ そこで仲間といろいろ話しあって 考えてみるんだよ
私が仮面をかなぐりすてて本当に憤る時憎む時 どこからでもいい帰って来い
(40・6・26)
掲載誌:『詩と民謡 北日本文苑』第23巻 七・八月合併号 復刊56号 通巻156号 1965
北日本文苑詩と民謡社