翼も肢も風に盗られて やっと声だけにしか頼れなかった鳥
その鳥が渡っていく川のない橋
その橋をやってくる未来の白い歯
それを立ちはだかって遮る過去の黒い背の装い
その背にくずおれている頂上のない山・歯をかち鳴らして底をせりあげている谷
川はどこへいった
川はなにもないところへいった
そこに意匠だけがしおらしげに時たまやってくる死者のいない墓がある
そこに嘘の中で何か呟いてちらと鱗をみせている真実がある
その何もないところだけにある何か
その何かにひかれてみんないく
(39・11・25)
掲載誌:『詩と民謡 北日本文苑』第23巻 四月号 復刊53号 通巻153号 1965
北日本文苑詩と民謡社