可愛い娘に 叛かれて
声で怒って 眼で泣いて
頑固一徹 装うて
可哀そうな お父さん
今夜 私も 眠られない
ああ 霧にぬれてく 東京よ
この世のみちは なぜ煙る
②
想うお方に よりそうて
姿かくして 旅ぐらし
星のふる夜は どこの町
可哀そうな お姉さん
今夜 なかなか 眠られない
ああ ともし消してく 東京よ
まひるの夢は なぜ消える
③
花も実もある あの人が
娘の中の娘だと
ほめて呉れてて 知らぬふり
可哀そうな シルエット
今夜 なぜだか 眠られない
ああ ひとみ閉ぢてく 東京よ
はたちのおもい なぜ募る
(昭和三三・九・八夜・連作の日)
掲載誌:『詩と民謡』1962年12月号 20巻7号