「黑い唇」

こんな夜なかに
一つきりの灯(ひ)と呼吸(いき)をするのは
なんやら 恐ろしい

星座も 微風(かぜ)も
(聖母像(まりあ)!)
白藤も呑まれた

ああ また 灯を呑まうと
黑い唇が窓(まど)で飜る

せめて何かの息づかひでも
何か 何か 物音でも……

(註)「窓」は「?」(unicode:U+7255)

掲載誌:『石』 中山輝詩集 昭和5年9月 90~91ページ『出顯』