「お花サ」


片目のお花サ 七山こえて
ツンボの左兵衛サへ お嫁にいった
  どんど ざんざの 海鳴りきいて
  どだけ 佐兵衛サと くらしたか ヨウ
海鳴りきくたび 川鳴り想(おも)て
おっ母(か)慕うて 日をたてに

海は荒れてた 吹雪にくれた
いとしい左兵衛サ 藻屑と消えた
  どんど ざんざの 潮鳴りきいて
  どだけ 佐兵衛サを 慕(しと)てたか ヨウ
貧乏漁師の 子持たず後家で
谷の一軒家へ 戻された

白髪(しらが)まじりの お花サ 今日も
峠の地蔵さんと あの海みてる
  ざんざ ざんざの 川鳴りきいて
  どだけ 佐兵衛サ 恋しいか ヨウ
桜の花びら 背中にのせて
暮れる沖みて しょんぼりと

佐兵衛サ 佐兵衛サ なんでまた死んだ
子供残さず 黙ってひとり
  ざんざ ざんざと 松風泣くな
  どだけ お花サ 泣かす気か ヨウ
どこか佐兵衛サ 呼んどるような
せめてお月さんでも 出ておくれ
(45・3・4午后1時某日刊新聞社で)

掲載誌:『時雨』 153号 14ページ