①
片目のお花サ 七山こえて
ツンボの左兵衛サへ お嫁にいった
どんど ざんざの 海鳴りきいて
どだけ 佐兵衛サと くらしたか ヨウ
海鳴りきくたび 川鳴り想(おも)て
おっ母(か)慕うて 日をたてに
②
海は荒れてた 吹雪にくれた
いとしい左兵衛サ 藻屑と消えた
どんど ざんざの 潮鳴りきいて
どだけ 佐兵衛サを 慕(しと)てたか ヨウ
貧乏漁師の 子持たず後家で
谷の一軒家へ 戻された
③
白髪(しらが)まじりの お花サ 今日も
峠の地蔵さんと あの海みてる
ざんざ ざんざの 川鳴りきいて
どだけ 佐兵衛サ 恋しいか ヨウ
桜の花びら 背中にのせて
暮れる沖みて しょんぼりと
④
佐兵衛サ 佐兵衛サ なんでまた死んだ
子供残さず 黙ってひとり
ざんざ ざんざと 松風泣くな
どだけ お花サ 泣かす気か ヨウ
どこか佐兵衛サ 呼んどるような
せめてお月さんでも 出ておくれ
(45・3・4午后1時某日刊新聞社で)
掲載誌:『時雨』 153号 14ページ