カラスは やつと 戻つてきました
とうとう白鳥になれなかつたと
つめたいみぞれの夕ぐれを
ぼろぼろの羽を ばたばた させて
何年ぶりかのこの木へ――
やれやれ待つていてくれたな
そう思うと つかれがどつとでて
ぐつすり ねむりこけてしまつたのです
やがて いつのまにか 白いものが身体を包んでいるのに気づいて
ふとめざめたとき
カラスは木が死んでいるのを知りました
カラスは ああ ああ なこうとしたけれど声はでず
それつきり 口をあけたまま
目と息をとぢてしまい
しつかり枝をつかんでたゆびをはなし
白鳥のように雪へおちこんでしまいました
どこからともなく 遠くから花のように舞いおりてくる 羽とも葉ともつかぬもの
それが一切を埋めてしまい
しんかん もの音一つせず
永劫が生きかえつてきたとき
どことなく何かかすかないのちのめざめがきこえ
雪のずつと下の 大地の底から ぬくもりがもりあがり
カラスと木をほとほととぬくめ
二つのものをしつかと抱いてふところへ入れ
一つであつてすべてであるところへ
とけこませていつてしまい――
いつか 光は新しいいのちに乗つてくるでしよう
そのとき そのときこそ
カラスは木となつて
木はカラスとなつて
ものいうものといえぬもの 飛べるものと飛べぬものに入りかわり
いきいきと あらわれ出てくるにちがいないでしよう
そして新しいカラスと新しい木は
生と死など どれほどの違いがあるものかと
葉と羽を出しあい ふれあわせ
光の中で永劫をささやきあうことでしよう
最後まで一層いたわりあつていくでしよう
―一九五四年一一月二七日午前一時酔余独語―
掲載誌:『詩と民謡』 昭和31年9月 11ページ