, 随筆

巻頭の辞「詩人というもの」

 ☆詩人は夢みる。その夢は現実の中に咲くのである。しかし現実にとらわれるのでない。理想を描くのである。その理想を現実の尺度で測るとき、嘆きや憤りも生れるだろう。それが革新を生む。だからたゞ耽美し感溺するのでは意味がない。もちろん美しさは讃えられていいが、それだけに留まるべきでないだろう。詩人は現在に立ちながら、あくまでも永遠の未来を想う。
 ☆詩人はいつも永遠をみつめる。それは人間性に列なるものだ。言葉や文字に時代性があつても永遠性の線にない。もちろん媒体だから、取捨選択の如何は対象への成果を左右する。大切に違いはないが枝葉で根幹ではない。問題はその詩人が何を考え夢みているかにある。
 ☆詩人は精神的な先駆者で予言者で革命児であるべきだ。その歌うものはその時代か次代に感動を与えるものでありたい。時代の尻尾にぶらさがるのでなく、新世代創造のツルハシを担う。そこに喜びと誇りと価値がある。
 ☆俳句や短歌もかけぬ詩人がいる。詩を書けぬ民謡詩人やら童謡詩人がいるし、民謡も童謡もかけぬ自由詩畑の人がいる。おかしいことである。(中山輝)

掲載誌:『詩と民謡』 昭和31年9月 9ページ